生体外での器官培養の信頼性が向上しました!
背景
脳や腎臓といった生体器官を詳しく調べるうえで、器官を生体内から取り出して生体外の環境で培養する生体外器官培養は、非常に有効な手法です。ショウジョウバエ幼虫を含む昆虫の生体器官は丈夫で培養が簡単なため、生体外培養実験によく使われてきました(参考[痛みを抑制するタンパク質を発見!]; [神経活動の「波のうねり」が痛みの情報を担うしくみを解明])。しかし、ショウジョウバエ幼虫はとても小さく、体液の組成を正確に測定することが困難なため、器官培養に用いる培地の組成(各種塩濃度や浸透圧など)を設定する根拠があいまいでした。特に、体液の浸透圧の測定値は、300~400 mOsm/kgと報告されており、かなり大きな誤差を含んでいると考えられました。
研究手法と成果
私たちは、体液組成により近い培地を開発するため、幼虫の体液を回収しその浸透圧を精密に測定することにしました。さまざまな手法を試みる過程で、従来の体液回収法では消化管の内容物が体液に混入してしまうことに気づきました。この問題点に対し、体液回収のためのすべての工程を低温条件下(4℃)で実施することにより、消化管内容物の混入を抑制できることを発見しました。さらに、食餌を着色することで消化管内容物の混入量を分光学的に見積もり、回収した体液の浸透圧測定値から「真の体液浸透圧」を高精度に推定することに成功しました。

現在の研究課題
私たちの研究から得られた体液浸透圧の測定値を基に改良した培地を用いて、より生体内に近い環境で生体器官の振る舞いを解析しています。なかでも、「生体器官がさまざまな浸透圧環境にどのように応答するか」に着目した研究を進めています。
文献
原著論文
Kurio et al., Journal of Experimental Biology, 2024, DOI: 10.1242/jeb.247249