トップ上村さんの雄叫び>修士・博士論文や申請書類の書き方とスライド作製の基本ルール

修士・博士論文や申請書類の書き方とスライド作製の基本ルール-簡潔にして明快-

99/1/14 上村 匡

  1. 「書けばよい。」、または「提出しさえすればパスするだろう。」と考えているなら、提出するな。読み手に理解してもらおうとする心掛けや工夫がなければ、書き手にとっても審査員にとっても時間のムダ。
  2. 目次を見れば全体の構成と何をやったかが一目でわかること。
    • 大見出しや小見出しの書き方のルール(いくつかバージョンがあるが)に従うこと。階層性がすぐわかってもらえるように見てくれを整える。整然としていない目次は、読み手(審査員など)の意欲を著しく削ぐ。
    • 目次にはなるべく「暗号」の類(例えばクローン番号や系統番号)をなるべく入れないようにする。
  3. 論理が明解で研究の流れが容易に理解できること。
    • 結果の章では、各パラグラフの冒頭に、そのパラグラフの要点が簡潔に書かれていなければならない。例えば、「XXを明らかにする目的で、何々をした。」など。
    • 接続詞の使い方に注意。例えば、本当に「しかし」でつないでよいのか?
    • 短い文章の連続で、ぶつ切りの構成になっていないか?一行そこそこの文章をパラグラフの途中に出すのは、よほどの印象点狙いのケースのみ。
    • まわりくどくないか?重複がないか?
    • 結果の章の本文中に細かい情報が書き込まれたために、かえって論理の流れが妨げられていないか?材料と方法、図の説明、または補遺に加える手がある。
  4. 個々の言葉や文章に、ムダ、重複、そして不明瞭な点がないこと。
    • すぐに英語に直訳できるかどうかが、明快な文章かどうかを判定する一つの目安になる(ただちに英語に直訳できる文章ばかりでは、味気ないという上級者もいるだろうが)。
    • ごちゃごちゃ文章で書くより、簡単な図表を添えることが大切。
    • 自分の研究にほとんど予備知識がない人が(例えばハエを扱ったことのない人が)読んで、抵抗なく読めるような工夫をする。
    • 主語がない文章を書いていないか?
    • 誤字や脱字はコメントする側の意欲をそぐ。「軸策」と「軸索」、大丈夫?
    • 具体的に書けるところはなるべくそうする。「何らかの」とか「という」はできるだけ避ける。別の言い回しでより直接的な、または具体的な表現ができないだろうか。「今後、厳密に(慎重に、注意深く、、、)検討していきたい。」あんたは政治家か?
    • 英語なら and あるいは or と書けるところを、「、」で書いてないか。
    • 必要以上に大げさな表現を使わない。また、次のような表現は、結果なら結果の1章あたり1回使えば十分。使い過ぎてはいけないし、使いどころを間違ってもいけない。「興味深いことに」、「意外なことに」、「驚くべきことに」、「強調すべきことは」、など。
    • 簡潔にできるところはそうする。例:「XXしていることが判明した」→「XXした」、「XXしていたものであった」→「XXした」、「XXすることが可能である」→「XXできる」など
    • 言葉の重複もちょっと気をつければ自分で直せる。例:「XX抗体で抗体染色した」→「XX抗体で染色した」
  5. 補遺の活用。大筋からははずれるが記載したいデータは、「補遺」に回す手がある。
  6. 週刊誌的表現あるいは事件記者的表現は使わない。伝記や随筆を書いているのではない。科学論文で大切なのは、研究成果とその流れ。「XXX(人名)らがXXを発見した。」、あるいは「遂にXXXが解明された。」などの劇的表現が文中にないか。
  7. 論文執筆中は、帰宅前に毎日原稿のバックアップコピーを用意すること。

仕上げ段階の注意

  1. 本文中の図表番号と図表(a,b,c,,,も)を照合させて、誤りがないことの確認。大事な図の番号を本文中に挿入するのを忘れた例がある!
  2. 引用文献が全て文献リストに含まれているかチェック。
  3. 誤字脱字がないか点検。
  4. 提出書類の書式は整っているか?業績目録、主論文、参考論文、など。

番外編 (断末魔のあえぎは見たくない)

  1. 必要書類・用紙はそろっているか?受教簿はなくしていないか?(なくした奴がいる。)
  2. 単位は確かに足りているか?(他人を嗤っていて実は自分の単位が足りなかった奴がいる。)

奨学金応募の際の注意

  1. 研究目的にマイナス指向の文章を書かない。否定主義は、(多数の応募者の選考に苦慮し疲労している)審査員の怒りを買うだけ。
  2. 研究内容に流れがなくてはいけない。
  3. 言うまでもなくタイトルは重要。タイトルに大切なキーワードが含まれているか。
  4. 山のような申請書類を前に疲労している審査員は、要旨だけ(極端な場合、最初の5行だけ)読んで採択または不採択をおおかた決定すると覚悟すること。それだけに要旨の内容に具体性や魅力が欠けると致命的。また自分の専門分野外の審査員を念頭においてわかりやすく書く。ハエを使っていない、または遺伝学にアレルギーを持つ人にもわかるだろうか。
    以下Current Biology 5, "How (not) to get a job" by Cori Bargmann より抜粋。
    The search committee consists of eight overcommitted faculty members from random fields. Each application is read by two of them, so if there are 400 applications, everyone reads 100. Of these, 30-50 applications will be read more seriously, and only six to ten applicants will be interviewed, so the biggest cut is based on what that first file looks like.
  5. [ハエグループ]ショウジョウバエのシステムを用いるメリットは何か、それでなければできないことは何か。
  6. [竹中指導1]当人だけがおもしろがっているととられるような表現は避ける。例「(私のデータで)XXが明らかにできると期待される」
  7. [竹中指導2]受け身にする。「AがBを制御する」と書かず、「AによってBは制御される」。表現を弱めることに徹する。
    受け身は官僚の作文にも多用されて評判が悪いですし,実の所非常に無責任極まり無い文章になると思います。ですから極力避けようとは思っているのですが,この無責任さが無駄な疑念を招くのを防ぐ場合には便利なので使っています。例えば,

    「これまでにMAPキナーゼが減数第2分裂のM期停止に必要であることを明らかにした」
    「・・・必要であることが明らかである」

    と書くと,(我々は確かにこの件については大きな貢献をしたと思いますけど)他の研究室のクレジットを排除したように思われるかもしれません。また,下の例では読む人によっては大勢はそうなっているかもしれないが,コンセンサスは得られていないんじゃないのと思う場合もあるかもしれません。

    「・・・必要であることが明らかにされた」
    「・・・明らかになっている」(受け身ではないですが)

    あるいは
    「・・・必要であると考えられている/されている」
    くらいにしておくと文句が出なさそうです。
  8. [竹中指導3]DC1への応募に際しては、M2で研究業績が論文で埋まっているヤツなどいない。従って、修論の要旨の欄では、できるだけやった結果を書き、「これだけ手が動くヤツだ。」との印象を与えることが極めて重要。
  9. 図の利用を心掛ける。審査員は、書類の山相手に疲労している。

スライド作製と発表の際の注意

  1. 詰め込み過ぎると遠くから何も見えない。
  2. 論文につかった a,b,c,d,,, とラベルされたそのままの図は使うな。
  3. 原則として全てのスライドにはタイトルを入れるべきである。タイトルしか見ない人(理解できない人)にも最低限の情報は伝えられる。
  4. 背景の色やグラジェントに凝り過ぎて肝心の字が読めなくはないか。
  5. フォントが不適切だと字が見づらい。細明朝や Times は見にくい。私は、日本語はゴシック(photoshop は平成角ゴシック)、アルファベットは Hervetica に統一している。
  6. 読めるはずのないシーケンスのスライドは時間の無駄であり、ひんしゅくもの。
  7. 見せたい箇所のズームアップを心掛ける。多くの会場では、部屋の大きさの割にスクリーンが驚くほど小さく、真ん中から後ろに座っていたのでは、スライドの細かいところは何も見えない。データを得る段階で、低倍で全体像を写すことと、思いきった高倍の像も得ることに留意する。特にコンフォーカルの場合、後者に注意。
  8. スライド用の原画は、なるべくスライドの枠一杯になるように。縦横の比率(1:1.5あるいは1.5:1)に注意。
  9. 時間超過が最初から明らかなトークをしたら、二度とお声はかからないと思え。
  10. 「ハエ以外の人に向けてセミナーをするときはハエの素晴しさを言う(say)必要はなく、仕事の内容で自ら示す(show)ことが肝心であると、Tomが言っていました。脊椎動物との差が小さくなってきた昨今ではさらに深い言葉だと思います。」(私が心の師と仰ぐTTさんのお言葉)