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研究内容(最新版):Neuroscience and Nutri-developmental biology

栄養バランスの変動に対して、動物はどのように応答し発生を調節しているかを研究する。また、感覚入力を区別して神経活動へと符号化し、その符号から選択的な行動パターンを生成する神経回路の動作原理にも注目している。別のプロジェクトとして、物理的な力が立体的な器官の構築に果たす役割を調べる。生体内イメージングやゲノムインフォマティクスを含めた、分子・細胞・発生・生理学的なアプローチを用いる。

Nutri-developmental biology とは、nutrition(栄養)と developmental biology(発生生物学)をくっつけた造語で、丹羽隆介さん(筑波大学)との議論の中から丹羽さんが発案しました。栄養バランスの変動に対して、動物はどのように応答して発生を調節しているかを研究する分野を意味します。

主な研究項目

研究内容まとめ1

以下は、科学研究費補助金・新学術領域研究「メゾスコピック神経回路から探る脳の情報処理基盤」での計画研究「遺伝学的摂動を用いた樹状突起ジオメトリーの演算原理の追究」(2010年度〜2014年度)の研究計画書から抜粋したものです。

  1. 研究開始当初の背景
  2.   ショウジョウバエ幼虫の体表感覚細胞 である Class IV dendritic arborization (da) neuron (Class IV neuron) は、個体の生存を危険にさらす侵害性刺激(高温、強度の圧力、そして短波長光)を受容し、忌避行動を惹起させる。Class IV neuron は固有の幾何学的形態(ジオメトリー)をもつ樹状突起を発達させており、これは、刺激の物理的な特性(有効面積、強度、時間変化率など)に最適化したジオメトリーを進化の結果獲得したためと想像される。しかしそのジオメトリーを調節する遺伝子プログラムには、不明な点が多かった。また、Class IV neuronが刺激に対してどのように応答し、刺激毎に選択的な定型的な運動パターンが出力されるのかも、ほとんど明らかになっていなかった。

  3. 研究の目的と方法
  4.   Class IV neuron の樹状突起ジオメトリーの背景にある遺伝子プログラムを、分子遺伝学的な手法に加えて、ゲノムワイドなアプローチを採用して明らかにする。また、Class IV neuronが刺激に対してどのように応答し、運動パターンが出力されるのかを解明する。そのために、樹状突起ジオメトリーの特徴を撹乱させる突然変異を分離し、原因遺伝子の機能を解析した。また、ジオメトリーを調節する転写調節プログラムを解明した。一方で、感覚刺激とその応答との入出力を定量的に解析する実験系を構築し、Class IV neuron が行う演算の実体を明らかにすることを試みた。

  5. 研究成果
  6. (1) Class IV neuron の樹状突起は、互いに交差することなく受容野を覆うパターンを形成する。7回膜貫通型カドヘリンFlamingo (Fmi) の機能減弱型変異体では、この突起交差忌避に異常があることを明らかにした。そしてFmi と、Fmi のカルボキシル側末端の細胞内領域結合するLIM-PETドメインタンパク質Espinas (Esn) が協調して樹状突起交差忌避を調節していることを明らかにした(図1;Matsubara et al., 2011)

    図1.7回膜貫通型カドヘリンと足場タンパク質との複合体による樹状突起交差の抑制
    (AとB)野生型個体での daニューロンの樹状突起の全体像(A)と拡大像(B)。樹状突起の分枝同士はほとんど交差していない。低頻度で観察される交差を赤矢印で指している。(C)espinas (esn) 変異体の突起は頻繁に交差してしまう。 (D)モデル図。伸長途中の突起末端に分布する非典型的カドヘリンFlamingo (Fmi) が一過的にホモフィリックに結合することで、突起間の衝突検知センサーとして働き、細胞内足場タンパク質Esnや他のグループによって報告されたタンパク質を介して、突起間の交差が防がれる。

    (2) ゲノムワイドな手法を用いて、樹状突起ジオメトリーの特徴を生み出す転写調節プログラムを明らかにした。神経細胞が分化する際には、各々の細胞タイプに特異的な遺伝子を発現する一方で、Ten-m遺伝子(同種親和性の細胞接着因子をコードする)などの共通の遺伝子を、細胞タイプ毎に異なるレベルで発現することで、各細胞タイプに選択的な形態的特徴が生み出されることを示した(図2;Hattori et al., 2013)。
    図2.神経細胞のタイプ特異的に樹状突起形態形成を制御するプログラム

    (3) 体の大きさの変化に合わせて、樹状突起のサイズを制御させるのに重要な役割果たす、CHORD遺伝子を発見した。CHORDタンパク質はTor complex 2 (TORC2) を介して栄養条件あるいは体の大きさを感知し、神経細胞のサイズを制御していることを見出した(図3;Shimono et al., 2014)。

    図3.体の大きさの変化に合わせた樹状突起のサイズを制御
    通常条件(AとC)または飢餓条件(BとD)で生育した個体中での、正常な神経細胞(AとB)または、CHORD遺伝子に変異を持つ神経細胞(CとD)。正常な神経細胞は体の大きさに合わせて形を変えずに拡大・縮小しているのに対し、、CHORD変異細胞は体のサイズに関わらず常にミニチュア型のパターンを示す。

    (4) Class IV neuron は、侵害性の熱刺激・機械刺激・光刺激のすべてに応答性を示す。しかも、このニューロンの神経活動を介して、熱刺激は体を頭尾軸の周りに回転させる特殊な防御行動を誘発するのに対し、光刺激は歩行方向を転換する忌避行動を惹起する。すなわち、単一のニューロンが、少なくとも2つの異種感覚刺激を弁別的に符号化し、2 種の独立した指令信号を発生させるという顕著な性質を持つ。この弁別的符号化機構を明らかにするため、精密に調節した感覚刺激下で、Class IV neuron の発火パターンと細胞内カルシウム応答とを同時計測することにより、刺激の符号化過程を詳細に解析した。その結果、侵害性熱刺激により特殊な発火パターン(“burst-and-pause”型発火パターン)が形成されることを発見した。この発火パターンは、電位依存性カルシウムチャネルを必要とする樹状突起カルシウム上昇を伴うことから、カルシウム性スパイク依存的に形成されることが強く示唆された。さらに、このカルシウムチャネルの活性は、熱刺激に対する防御行動に必須である一方、光忌避行動には必須でないことを見出した。以上の結果から、“burst-and-pause”型発火パターンを侵害性熱刺激の弁別的な指令信号として中枢に伝達することにより、特定の行動を惹起しているとの仮説を提唱した(図4;Terada et al., eLife, 2016)。

    図4.高温刺激に対するClass IV neuron の発火パターンと細胞内カルシウム応答との同時計測 (左)解剖した幼虫体壁上の感覚ニューロンにガラス針を設置し細胞外電位記録を行っている。赤外線レーザー(IR)の照射に応答した細胞内カルシウム濃度変化(右最上段)と、細胞外電位記録(右下電位波形)。典型的なBurst-and-Pause型発火パターンの例(野生型での星印)。L型カルシウムチャネルを阻害すると発火静止期が消失する(L型カルシウムチャネル遮断)。最下段は刺激点近傍の温度変化を示す。


  7. 主な発表論文(全て査読あり)
    1. Terada, S., Matsubara, D., Onodera, K., Matsuzaki, M., *Uemura, T., & *Usui, T. Neuronal Processing of Noxious Thermal Stimuli Mediated by Dendritic Ca2+ Influx in Drosophila Somatosensory Neurons. eLife, 5:e12959 (2016). (*: Corresponding authors)
    2. Shimono, K., Fujishima, K., Nomura, T., Ohashi, M., Usui, T. , Kengaku, M., Toyoda, A. & * Uemura, T . An evolutionarily conserved protein CHORD regulates scaling of dendritic arbors with body size. Sci. Rep. 4, 4415 (2014).
    3. Hattori, Y., Usui T., Satoh, D., Moriyama, S., Shimono, K., Itoh, T., Shirahige, K. & *Uemura, T. Sensory-neuron subtype-specific transcriptional programs controlling dendrite morphogenesis: genome-wide analysis of Abrupt and Knot/Collier. Dev. Cell. 27, 530-544 (2013).
    4. Tsuyama, T., Kishikawa, J., Han, YW., Harada, Y., Tsubouchi, A., Noji, H., Kakizuka, A., Yokoyama, L., Uemura, T . & *Imamura, H. In vivo fluorescent adenosine 5'-triphosphate (ATP) imaging of Drosophila melanogaster and Caenorhabditis elegans by using a genetically encoded fluorescent ATP biosensor optimized for low temperatures. Anal. Chem. 85, 7889-7896 (2013).
    5. Satoh, D., Suyama, R., Kimura, K. & *Uemura, T . High-resolution in vivo imaging of regenerating dendrites of Drosophila sensory neurons during metamorphosis: local filopodial degeneration and heterotypic dendrite-dendrite contacts. Genes.Cells. 17, 939-951, (2012).
    6. Matsubara, D., Horiuchi, S. Y., Shimono, K., *Usui, T., & Uemura, T. The seven-pass transmembrane cadherin Flamingo controls dendritic self-avoidance via its binding to a LIM domain protein, Espinas, in Drosophila sensory neurons. Genes. Dev. 25, 1982-1996 (2011).

    研究内容まとめ2

    上村研究室の今までの業績を、日本発生生物学会のホームページで簡潔に紹介頂きました。
    日本の発生学を知る写真シリーズ|上村研究室(1)
    日本の発生学を知る写真シリーズ|上村研究室(2)

    研究内容まとめ3

    以下は、科学研究費補助金採択課題「樹状突起のパターン形成:分岐の複雑度や受容野のサイズを調節・維持する分子機構」(2005年度〜2009年度)の研究終了報告書と、「遺伝学的摂動を用いた樹状突起ジオメトリーの演算原理の追究」(2010年度〜2014年度)の研究計画書から抜粋したものです。平面内細胞極性 (planar cell polarity;PCP) など他の研究内容については、「研究内容のまとめ4」をご覧下さい。

    樹状突起はシナプス入力または感覚入力を受け取る神経突起である。樹状突起の・何学的形態(ジオメトリー)はニューロンのクラス毎に著しく異なり、この多様性は各クラスに特有の生理機能を反映していると考えられている(図1)。本研究では、ショウジョウバエの感覚細胞を主なモデル系として、樹状突起の分岐の複雑度、伸長、そして安定性がどのように調節されるのかに注目した。まず、特定のサブクラスのニューロンに発現し、そのクラスに特徴的な突起のジオメトリー形成を担う転写調節因子を発見した。また、細胞質ダイニン複合体が初期エンドソームの積み降ろしを調節することで、細胞体から突起末端に向かう分岐パターンが形作られることを明らかにした。そして、新規のミトコンドリアタンパク質を発見し、正常な樹状突起形成および突起の縮退・変性を抑制する役割を示した。さらに、成虫期のニューロンを同定し、樹状突起のリモデリングだけでなく、加齢に伴う神経突起の変性を一細胞レベルで感度よく検出できる系を構築した(図2)。今後は、樹状突起ジオメトリーが、モデル系として扱っている感覚細胞に固有の発火様式やシナプス伝達効率などの神経生理機能に、どのように寄与するかを解明することも課題である(図3)。

    研究成果

    研究内容まとめ4

    以下は、科学技術振興機構・戦略的創造研究推進事業「発生・分化・再生」研究領域に採択された研究課題「単一細胞レベルのパターン形成:細胞極性の 制御機構」(2000年度〜2005年度)の、研究終了報告書を改変したものです。その後の研究の発展については、「研究内容のまとめ3」や、「大学院生 募集」の中の「研究費」をご覧下さい。

    研究成果(short version)

    研究成果(long version)